Aplaudoのブログ

ハンドメイド作家さんの作品を扱っている、茨城県水戸市南町3丁目のAplaudo(アプラウド)です。アプラウドの2階は、ギャラリー誉(よ)りみちです。

さくら

茨木のり子さんの さくら】

2006年、79歳のとき生涯を終えた詩人、茨木のり子さん。
生前、準備をされていた‘お別れの言葉’の中で、
「…『あの人も逝ったか』と一瞬、
たったの一瞬思い出してくだされば、
それで十分でございます。」
と書きおかれました。

死と向き合うことについて、全く私はわからないけれど、
この季節になると、
茨木のり子さんの詩「さくら」が
読みたくなります。

一瞬と、永遠とが混成し、詩のなかで
別の輝きをはらんで来て、
魂が慰められる気がします。


散りゆく桜の花は潔く、
茨木のり子さんにイメージする部分と相重なる、永遠の「さくら言葉」。



… …

「さくら」 茨木のり子

ことしも生きて
さくらを見ています
ひとは生涯に
何回ぐらいさくらをみるのかしら
ものごころつくのが十歳ぐらいなら
どんなに多くても七十回ぐらい
三十回 四十回のひともざら
なんという少なさだろう
もっともっと多く見るような気がするのは
祖先の視覚も
まぎれこみ重なりあい
霞(かすみ)立つせいでしょう
あでやかとも妖し(あやし)とも不気味とも
捉えかねる花のいろ
さくらふぶきの下をふららと歩けば
一瞬
名僧のごとくにわかるのです
死こそ常態
生は愛しき蜃気楼と      

           
(「茨木のり子の家」「おんなのことば」より)